ノーマルスーツを着用したシャアはモビルスーツデッキに向かう途中だった。
その先にある角を曲がり細い通路を抜ければそこはもうデッキであるが、
通路に入ったところで「クワトロ大尉」と自分を呼び止める声がした。
振り向くと後を追うようにしてアムロが近付いてくる。
「アムロ、君もまだいたのか」
「会えて良かった」
「私に用だったのか」
「‥‥まあな。いや、用と言うわけじゃないが」
言葉を濁したアムロもまたパイロット用のノーマルスーツを着用している。
リフトグリップから離れ、身軽になったアムロがシャアに身体を寄せてきた。
「これで片がつくといいが、お互い休む間もないな」
その言葉にシャアも小さく頷く。
これから時を遡ってまで人類抹殺を謀ろうとするメイガスらとの戦いに出向くのだ。
通路の先からは発進準備に追われるクルー達の声が聞こえてくる。
騒音に互いの声がかき消される。
「全てが片付けば嫌と言うほど休めるさ」
シャアの言葉にアムロが含み笑いをした。
「だといいがな。バルマー戦役の時も似たような言葉を聞いたぜ」
「そうだったかな」
「ああ。そうだったさ」
とぼけた口調にシャアは軽く笑い、アムロの肩を親しみを込めて叩いた。
「さあ行くぞ大尉。指揮官二人が遅れてはまずいからな」
そしてシャアはデッキに向かうべくアムロを促し先頭に立った。
が、
「シャア」と彼は再び呼び止められた。
すでに発進準備にかかっているだろう仲間を追ってロランは通路を急いでいた。
一度ソレイユに戻りディアナ様に会いたかったのだけれどどうやらそんな時間はなさそうだ。
ムーンクレイドルをメイガスの手から今守らなくてはロラン達の未来もないのだ。
明かされた黒歴史の真実はショックだったものの、その時代の人達に触れた今では力になりたいと思っていた。
より良い未来を作る為に。
そう信じたからからこそ月の女王ディアナ・ソレルもここにこうしていらっしゃるのだから。
(ディアナ様のためにも)
最善を尽くしたい。
「‥‥あ‥」
どうやらロラン同様まだデッキに辿り着いていないクルーがいたようだ。
通路を抜ける間際、柱の奥に人陰を見つけたロランはいったい誰だろうと相手に目を凝らした。
シャアは通路のはり出した柱の角奥に押し込められていた。
唇には先刻から柔らい感触。
うっすらと開いた瞳の前にアムロの長い睫が見えた。
角度が変わる度に閉じられたそれは少し震える。
「‥‥アム‥ロ‥」
僅かに唇の離れた間をぬって名前を呼ぶと下唇をかりりと噛まれた。
黙れとの合図にシャアはならばとアムロの腰を両手で掴むと強く引き寄せた。

(うっ‥‥うわぁぁぁぁあ)
ロランは声にならない叫びをあげた。
──あげ続けた。
クワトロ大尉の首に腕を巻き付けているあれはアムロ大尉。
そしてアムロ大尉の腰に手をまわしているのはクワトロ大尉だ。
二人は今まさに熱い抱擁‥‥‥キスを交わしている。
「‥‥‥‥‥」
それが何を指しているのか、わからないほどロランも子供ではない。
(そうなんですかお二方!!)
そうだったんですか?
そ−ゆ−間柄だったんですか!?
ロランの心の叫びはいつまでも続くのだった。
凝視されればいくら目の前の相手に夢中だといっても気付く。
ごくりと唾を飲み込んだロランに二人の視線がゆっくりと向けられる。
(うはっ‥‥‥‥)
思わず溜めていた息を吐く。
視線だけを動かし身体の密着を解かないあたりがまたいかにもという感じで刺激の強さに目眩を起こしそうだ。
「‥‥まあそういうわけだから」
先に口を開いたのはクワトロ大尉ではなく意外にもアムロ大尉だった。
「‥‥‥‥はぁ‥‥」
それ意外に返事のしようのないロランはただぎこちなく頷くしかなかった。
「‥‥‥‥‥」
ロランは強ばった(だぶん赤面しているだろう)顔をデッキのある方へと向けた。
そしてふらふらとおぼつかない足取りで通路を漂って行くのだった。
ぽつりとシャアは呟いた。
「刺激が強かったな」
当たり前だ。
エースパイロット同士、
男同士のラブシーンだ。
二人ともニュータイプであり軍きってのエースパイロットだ。
ロランの気配などとっくに気付いていただろうに。
この二人、一体何をやっているのだ!!
ロランが通路から姿を消してからようやく二人は互いから離れた。
幾分名残惜しさを唇に残しながら、それでも口元を引き結ぶ。
「シャア。生きて帰ってこいよ」
「無論だ。アムロ、君も健闘を祈っている」
敗北を許されない戦いだ。
強い光がシャアとアムロの瞳に輝く。
そして二人もデッキへ姿を消した。
ただ喧噪だけが後に残った。
- 明日への挑戦 -
たまにはイラスト付なんてのもどうでしょう。
(絵と話の場所が違いますが)
アムロもシャアも「空の面舵」では尊敬されていただろうに‥‥。
奥にいるのはコンバトラーチームの二人と洸くんとカミーユでした。
イラスト自体は6月中に完成していたんですよね。
熱さでその先が進みませんでした。
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