街角メルヘン









さむい‥‥‥。
と思っていると目の前に白いものがはらりと落ちた。
ああ‥‥。
空は雪曇りだ。
降って当たり前、驚く事ではなかった。
けれどもう少しだけ待って欲しかったと俺は思った。
街の大抵の広場にはクリスマス市がたっていた。
中央にはツリーが立ち、その周囲を夕方から開く露店が囲っ ている。
『今日は楽しいクリスマス』
気の早い者はすでにその周りに集まり今夜の催しについて話 をしていた。
そんな広場を横切り雑踏に踏み込もうとした時、背後から俺 を呼び止める声がした。
「アムロ、待っていてくれると思っていたのだがな」
「こんな寒い日にいつまでも待ってられるかっ」
仕方がないというようにシャアが笑った。
なんとなく全てを見透かされているような気がして、俺は再 び歩き出した。
シャアに追い付かれないように早く。








俺とシャアが出会ったのは偶然だった。
まさか同じ店で出会うとはシャアも思ってなかったらしく、 驚いた後はなんだという話になった。
普通ならそこで意気投合し、どこか行こうとなるのだろうけ ど‥‥‥。
方向は同じなのに不揃いで帰宅の道を歩く。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
俺もシャアも無口なのには理由がある。
ついこの間言い争いをしたばかりだからだ。
内容はまぁ些細なことなんだけど、お互い引っ込みがつかず それっきり。
前の事をいつまでも引きずって‥‥。
本当は自分が女々しくなんだか小さな男になったようでこん なのは嫌だった。
振り向けばすぐ後ろにシャアがいるのに。
ならいっそ先に謝ろうかとも思うのだけど、結局俺から折れ るというのも悔しく思えて言い出せない。







どこもかしこもクリスマス一色。
どちらかといえば無神論の俺さえ、心の奥がぽうっと暖かく なってしまうそんな温かな賑わいがある。
夜ともなればイルミネーションが一斉に鮮やかな光をまき散 らし、小さな街がそれこそ華やかに賑わうのだ。
キラキラ光るクリスタルボール。樹のてっぺんの硝子細工の 大きな星。
ウィンドウ内のミニチュアの家族は誰も欠ける事がなく、三 人の学者が御子の誕生を盛大に祝う。
赤や緑の包装紙に金と銀の輝くリボン。
プレゼントの中味は夢や希望、幸せ。
全てが小さい頃は揃っていたものばかりだ。




それなのに俺ってば何やってるんだろう。
目頭が熱くなってくる。







「‥‥あ」





目を逸らした先のショーウィンドウにシャアが映っていた。
ばっちりと目が合ってしまう。
‥‥そうだ
シャアがついてきていたのを忘れてた。
うわ‥‥、
なんだか変なところを見られてしまった。
俺は急に気恥ずかしさに襲われて、慌てて視線を逸らした。
けれど、
気がつくと俺はまたウィンドウに映るシャアを追っていた。
ガラスに映るシャアはなんだかいつものシャアと違って見え る。
どこがどうというわけではないのに。
どうしてだろうと考える。
ガラスのシャアが寂しげだからだろうか。
吸い込まれたように惚ける。
『‥‥‥‥‥か』
ガラスのシャアが何か呟いた。
「‥‥‥え?」
すると今度は僅かに俺に顔を寄せて耳元でそっと囁いた。
「ガラスの私ではなく、そろそろ本物を見てくれないか」
「あっ‥」
ごめん‥。
咄嗟について出た言葉にガラスのシャアが笑う。
今度はいつにも増して嬉しそうだと俺は思った。







雑踏を通り抜け、繁華街の裏に出る。
住宅街の中に見慣れた坂がやがて現れ、人疲れした心がほっ と溜息をつく。
空は随分暗くなっていた。そのぶん舞い落ちる雪の白さが美 しい。
吐く息が大きな綿毛のようだ。ふわりと空に流れた。
シャアが坂の下で足を止めるのにつられて俺も足を止めた。
この坂を上ればセイラさんの喫茶店とシャアの家が待ってい る。けれどこのまま通り過ぎれば俺の家の方角だ。
「アムロ、何か予定はあるのか?」
「‥‥‥うん、まぁ‥」
「そうか」
「‥‥‥‥」
シャアの『そうか』というのはどういう意味なのだろう。
シャアは何か考えているようだった。
その時間が俺は怖かった。
俺もついていって良いという意味合いなのか。
それともここで別れようと俺に促す言葉なのだろうか。
今日ばかりはシャアの許しがなければ坂の上には進めない。
なんで素直に予定はないって言えなかったのだろう。
「アムロ、君はケーキを食べるだろう?」
「‥は?‥何だって?」
真顔で言うにはあまりにも不釣り合いな内容だった。
話が急に変わったのについて行けず、俺は面喰らった。
けれどそんな俺にシャアはお構い無しだ。
「セイラがケーキを用意して待っている」
「‥‥‥‥」
「手作りだぞ」
「行く」
「‥‥そういうところは素直だな」
「‥‥‥いいだろっ」
シャアに笑われた俺は、照れくささにそっぽを向いた。








好きなんだ。
その言葉は幾度となくシャアに伝えてきた。
それでも想いはますます膨らむばかりで内側から溢れては外 へとぽろぽろこぼれ落ちる。
シャアに自分だけ見ていて欲しいと思ってしまう。
シャアの事になると貪欲にも嫉妬深くにもなってしまう。
そんな自分が嫌で、自分を変えてしまうシャアを少し恨む。
シャアの腕の中で。
「‥おいっ」
「いくらなんでもセイラの前でするわけにはいかないだろ う」
「そうだけど──」
だってここ店のドア口じゃないか。
セイラさんが出てきたらどうするんだよ。
けれどシャアの俺を抱き締める腕は離れなかった。
「少しだけだ」
「‥‥うん‥‥」
周囲に人陰はない。
いたとしてもこんなところで男が二人抱き合ってるとは思わ ないだろう。
こうしていたいのはむしろ俺の方かもしれない。
そう思って、そしてもうしばらくこのままで良いかと思った 俺は、熱いキスをシャアに送ったのだった。










- 街角メルヘン -

「6月の雨」のお話。
怪しい内容怪しいタイトルですみません。
クリスマス用になにかひとつと思った書き下ろし。
MS乗りのアムロとシャアを書いていたらいつの間にかこんな話に!!
おっかしい‥‥。