「永遠の誓い、しようか」
ここで



そう呟いたのはアムロだった。

「‥‥‥‥‥」

その時ばかりは潮騒も音をひそめた。






++  長 い お 別 れ  ++







「──なんてな」
星の空を見上げくすりとアムロが笑う。



「‥‥そうなのか」
「え?」


「──君からのプロポーズかと、思った」


「‥‥‥‥‥」



しばらくしてアムロは頭を掻いた。
「‥‥そんなわけないだろ」
溜息をつく。
「‥‥べつに意味があったわけじゃない」
「そうか」
「そうだよ」
ただの言葉のあやである。

「‥‥‥そうだな」
二人の間に沈黙が落ちる。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」



「言いたい事があるならはっきり言えよ!」
「言いたい事とはなんだ!私は「そうだな」とはっきり君に 示したぞっ。他に何を言えと言うんだ」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」



沈黙が気まずさに変わる。






海を見つめて並んで座る二人の距離は近くもなく遠くもない。
その距離に沈黙の深さが絡み合い、やがて交わされた会話に 意味を持たせてしまう。
その事に同時に気づく。










(永遠の誓い、しようか)

ここで


呟きは甘く、シャアの耳にいつまでも留まっていた。
それだけの言葉がアムロの口から溢れるとなんと艶やかに聞 こえるのだろう。
胸から消えない虚ろなうろにその言葉が沁みていくのをシャ アは感じていた。

言葉は拡散し、内側から隅々までシャアを揺さぶる。
こんなに強い衝動が自分の中にある事を、知らなかった。












互いが同性であること。
それに嫌悪はなかった。
そんなことより強い戸惑いの理由は、誰より身近だった相手 の体温に初めて触れるという事実。
顔を近付けるこの距離はもはや仲間でもなく、ましてや敵で もない。









「お‥い‥‥」
アムロの声が震えた。
シャアの息がかかるのに薄く唇を開く。












その瞬間は目眩がした。
どこか硬くて冷たいと思っていたこの男の唇。
それがこんなにも柔らかいなんて。
初めて経験する恋のように躊躇いがちに互いに触れる。
それだけの仕草でさえ感じてしまう事実。
どうしようもなく胸がうち震えるこんな思いは知らない。
暗闇に手押されて、
導かれるまま再び互いの唇が持つ温もりと柔らかさを確認し 合った。






触れるキスを交わすうちに、羽織っていただけの上着がアムロの肩から滑り落ちた。
何者かに囁かれるまま、仄暗く浮かび上がるうなじに唇を這 わせる。
アムロが息を呑み、シャアの舌には潮の香りと汗の味が残っ た。










波のざわめきが今は心地良い揺り籠。
逆巻く興奮が底から響く波の音と共鳴していた。
汗が絡み熱い息が舞う中執拗に温もりを求め合った。
二人の吐き出した精でまみれた指をアムロの下肢に潜り込ま せたシャアは
抵抗を見せる彼の身体を押さえつけ、
その堅く閉じた門を無理にこじ開けた。
「すまない‥‥。君に負担をかける」
のどを震わせ掠れ声で告げるシャア。


夜に青く浮かび上がるシャアの、さながら断罪に怯える咎人の様子にアムロは抵抗を止めた。
涙に見える汗の伝うその頬に手を添えた。


「‥‥シャア‥‥」

小声で囁くアムロの言葉を最後まで待たず、二つの身体が重なった。






苦痛に涙するアムロの身体をシャアはかき抱く。










+ +   + +







熱を持った肌の上を夜風が撫でていく。
ひんやりと冷たい。
潮の引いた海は静かだった。
いつの間にか月が登り、遠い波の上に輝く道を落としてい る。
世界が月の落とす光に満ちていた。
海も、空も。
今では互いの顔が良く見える。
アムロの頬の涙の痕をシャアの唇がそっと吸いとる。
「殺されるかと思った」
喋るのも辛そうに横たわるアムロが力の失せた声で呟いた。
居心地悪気にシャアが身じろぐ。
「‥‥すまなかった」
「‥謝るくらいならするなよ‥‥」
「‥‥‥‥」
夜空に広がる銀河をアムロは心地よく見上げた。
その姿をシャアは見守る。
「──シャア」
「ん?」
「貴方だけ抜け駆けは、金輪際無しだからな」
その言葉にシャアは目を細めた。
アムロの瞳がシャアを捕らえる。


「──ああ」


ここで誓おう。


身を焦がしてまでも手に入れたいものが何だったのか。
それを知った今、シャアの胸には何者の亡霊も存在しない。
アムロのくせのある髪に指を絡めると、彼の口から充足の吐 息が洩れた。
閉じた薄い瞼に唇を落とすと、アムロの優しい輪郭に微笑み が浮かんだ。

「おやすみ。アムロ」


二人でこれから長い眠りにつく。

明日から終わらない時が始まる──。












- 長いお別れ -

出歯亀的話でした。
「今宵銀河の片隅で」と一本だったこの話。
ところが前半だけでいい感じだったのでこの後半はお蔵入り。
でも削除するには冒頭のやりとりが捨てられず、
夢見る野郎二人(笑)も気に入っていたので完成させました。
この二人、傍で見ていたらいろんな意味で「ケッ」かもしれない。