「永遠の誓い、しようか」
ここで
そう呟いたのはアムロだった。
「‥‥‥‥‥」
その時ばかりは潮騒も音をひそめた。
++ 長 い お 別 れ ++
「──なんてな」
星の空を見上げくすりとアムロが笑う。
「‥‥そうなのか」
「え?」
「──君からのプロポーズかと、思った」
「‥‥‥‥‥」
しばらくしてアムロは頭を掻いた。
「‥‥そんなわけないだろ」
溜息をつく。
「‥‥べつに意味があったわけじゃない」
「そうか」
「そうだよ」
ただの言葉のあやである。
「‥‥‥そうだな」
二人の間に沈黙が落ちる。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「言いたい事があるならはっきり言えよ!」
「言いたい事とはなんだ!私は「そうだな」とはっきり君に
示したぞっ。他に何を言えと言うんだ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
沈黙が気まずさに変わる。
*
海を見つめて並んで座る二人の距離は近くもなく遠くもない。
その距離に沈黙の深さが絡み合い、やがて交わされた会話に
意味を持たせてしまう。
その事に同時に気づく。
*
(永遠の誓い、しようか)
ここで
呟きは甘く、シャアの耳にいつまでも留まっていた。
それだけの言葉がアムロの口から溢れるとなんと艶やかに聞
こえるのだろう。
胸から消えない虚ろなうろにその言葉が沁みていくのをシャ
アは感じていた。
言葉は拡散し、内側から隅々までシャアを揺さぶる。
こんなに強い衝動が自分の中にある事を、知らなかった。
*
互いが同性であること。
それに嫌悪はなかった。
そんなことより強い戸惑いの理由は、誰より身近だった相手
の体温に初めて触れるという事実。
顔を近付けるこの距離はもはや仲間でもなく、ましてや敵で
もない。
「お‥い‥‥」
アムロの声が震えた。
シャアの息がかかるのに薄く唇を開く。
*
その瞬間は目眩がした。
どこか硬くて冷たいと思っていたこの男の唇。
それがこんなにも柔らかいなんて。
初めて経験する恋のように躊躇いがちに互いに触れる。
それだけの仕草でさえ感じてしまう事実。
どうしようもなく胸がうち震えるこんな思いは知らない。
暗闇に手押されて、
導かれるまま再び互いの唇が持つ温もりと柔らかさを確認し
合った。
触れるキスを交わすうちに、羽織っていただけの上着がアムロの肩から滑り落ちた。
何者かに囁かれるまま、仄暗く浮かび上がるうなじに唇を這
わせる。
アムロが息を呑み、シャアの舌には潮の香りと汗の味が残っ
た。
*
波のざわめきが今は心地良い揺り籠。
逆巻く興奮が底から響く波の音と共鳴していた。
汗が絡み熱い息が舞う中執拗に温もりを求め合った。
二人の吐き出した精でまみれた指をアムロの下肢に潜り込ま
せたシャアは
抵抗を見せる彼の身体を押さえつけ、
その堅く閉じた門を無理にこじ開けた。
「すまない‥‥。君に負担をかける」
のどを震わせ掠れ声で告げるシャア。
夜に青く浮かび上がるシャアの、さながら断罪に怯える咎人の様子にアムロは抵抗を止めた。
涙に見える汗の伝うその頬に手を添えた。
「‥‥シャア‥‥」
小声で囁くアムロの言葉を最後まで待たず、二つの身体が重なった。
苦痛に涙するアムロの身体をシャアはかき抱く。
+ + + +
熱を持った肌の上を夜風が撫でていく。
ひんやりと冷たい。
潮の引いた海は静かだった。
いつの間にか月が登り、遠い波の上に輝く道を落としてい
る。
世界が月の落とす光に満ちていた。
海も、空も。
今では互いの顔が良く見える。
アムロの頬の涙の痕をシャアの唇がそっと吸いとる。
「殺されるかと思った」
喋るのも辛そうに横たわるアムロが力の失せた声で呟いた。
居心地悪気にシャアが身じろぐ。
「‥‥すまなかった」
「‥謝るくらいならするなよ‥‥」
「‥‥‥‥」
夜空に広がる銀河をアムロは心地よく見上げた。
その姿をシャアは見守る。
「──シャア」
「ん?」
「貴方だけ抜け駆けは、金輪際無しだからな」
その言葉にシャアは目を細めた。
アムロの瞳がシャアを捕らえる。
「──ああ」
ここで誓おう。
身を焦がしてまでも手に入れたいものが何だったのか。
それを知った今、シャアの胸には何者の亡霊も存在しない。
アムロのくせのある髪に指を絡めると、彼の口から充足の吐
息が洩れた。
閉じた薄い瞼に唇を落とすと、アムロの優しい輪郭に微笑み
が浮かんだ。
「おやすみ。アムロ」
二人でこれから長い眠りにつく。
明日から終わらない時が始まる──。
- 長いお別れ -
出歯亀的話でした。
「今宵銀河の片隅で」と一本だったこの話。
ところが前半だけでいい感じだったのでこの後半はお蔵入り。
でも削除するには冒頭のやりとりが捨てられず、
夢見る野郎二人(笑)も気に入っていたので完成させました。
この二人、傍で見ていたらいろんな意味で「ケッ」かもしれない。