LOVE YOU
アムロの誕生日が11月4日ですでに終わってしまったこと。
シャアの誕生日も同じく11月で近いこと。
それらを知ったのは士官食堂ではち合わせをした二人が、向い合わせに食事をしていた時だった。
こうして一緒に食事を取る事は久しぶりで話しが弾むかと思えば、その雰囲気は和やかとは程遠い。
その原因は過ぎてしまったアムロの誕生日祝いにある。
先日までシャアは数人のメンバーと共に本隊とは別行動をとっていた。そのためアムロの誕生日を逃してしまったのだ。−遅ればせながら君の誕生日を祝いたい−
そう提言するシャアに対してアムロが発したのは、しなくて良いというひどくつれないものだった。
「君も可愛くない男だな」
「男が可愛くてどうするんだ」
たとえそれが言葉の言い回しであってもアムロにその言葉は禁句だ。とたんにアムロの双眸が険しくなる。シャアはしまったと思ったものの、口 にしてしまったものはもう遅い。
「いいよもう。貴方は任務でちょうど月に降りていたんだ。それに俺はみんなに祝ってもらったんだし」
淡々と語る口調は穏やかで、幸いアムロも言い争いを長引かせる気はないらしい。好意からの申し出であるのも承知しているのだろう、シャアを ひと睨みするだけに留めてくれた。
だがみんなに祝ってもらったという言葉はいただけない。
皆が良くて、何故この私はいけないのだ?「君は良いかもしれないがそれでは私の気が済まない」
「どう済まないんだよ。こだわる程の事でもないだろ」
だいたい誕生日なんて、俺だって忘れていたんだぜ。アムロは苦笑すると紙屑を空になったトレイに乗せ席を立った。
さあ、これでこの話はお終いだ。彼としてはそんな気持ちだったのだろう。
だがシャアの方はどうにも納得がいかない。アムロの後を追って席を立つと彼の背後にぴたりと寄り添う。「シャ‥」
シャアの公衆の前での親密すぎる接触にアムロは狼狽えた。
「こだわる程ではないのだったら、私が食事くらい誘ってもいいだろう」
なおも食い下がるシャアに気もそぞろのアムロはそれでもうんとは言わない。シャアはアムロの強情さに感心半分苛立ち半分の面持ちでいたが、 これでどうだ、とばかりに切り札を開いてみせる。
「では私の誕生祝いに、私に君の誕生祝いをさせてくれ。これなら文句あるまい」
文句もなにも、そこまでして自分の祝いをしたいのだろうかシャアは。
「‥‥‥分ったよ、もう好きにしてくれ」
これ以上ここで注目も浴びたくない。根負けしたのは珍しくもアムロの方だった。
夜である。へぇ、こんな場所あったんだ‥‥。
珍しくアムロは感心の声をあげた。
シャアに促されるまま、一見なんの変哲もない建物内にアムロは足を踏み入れた。そして続く漆喰の壁の、更に奥で口を開けるアーチ門をくぐりぬける。その先 でアムロは外界からは思いもかけない濃い緑とそれに違わない緑の、そして花の甘い香りに出迎えられていた。「良くこんなとこ知っていたな」
アムロが案内された場所は地球の東洋と思われる、南国リゾートを模倣したオープンレストランだった。
オープンレストランといっても実際には近代的な建物内にある。
天井の一部は確かに吹き抜けてはいたものの、実際に壁が吹き抜けているわけではない。南国特有の熱気も随分と押さえられている。それでもワンフロアを使い 切った広い敷地に巨大な葉が折り重なり、迷路のように鬱蒼と茂る緑はここが室内とは感じさせず、南国にトリップしたかのような錯角を訪れた者達にに十分に 起想させる。
また、ところどころにしつらえられた花を浮かべた小ぶりの噴水。
そこからこぼれ落ちる銀の水音。
のんびり打ち鳴らされるまろやかな竹の音。
そして甘く芳しい花の香りとさりげなく立ち篭める香の煙りが、嫌が応でも気分を行った事もない南の国へといざなう。
葉影に見え隠れする不可思議な石像たちは南国の神だろうか。これもまた白い花で化粧されている。「君のために落ち着ける場所を探していたらここに辿り着いた。周りの目が気になって気もそぞろ状態の君も、これなら周りを気にする事もない だろう?」
そう言って悪戯っぽく笑うシャアに、アムロは食堂でのやり取りを思い出す。
「よく言うよ。どうせ誰かと来たんだろう」
「そいつはノーコメントとしておこう」
「‥‥‥‥」
悔しさにささやかな反撃をしたつもりが、逆に聞き捨てならない返事をもらってしまった。
ひやりとした内心を押さえ込み、アムロが応酬しようと言葉を探している時だった。
褐色の肌の小柄な女性がにこやかに現れた。
案内係らしい。
彼女にいざなわれ、2人はゆっくり奥へと足を踏み出す。
ジーンズにTシャツの上に軽くシャツを羽織る。
そんなアムロがどこかすまして前を歩く姿にシャアは苦笑した。ノーコメントと言った自分の言葉が効いているのだろう。
シャアは彼の左腕を掴むと自分に引き寄せた。なんだよ、といぶかしがるアムロに彼にだけ聞こえるよう耳もとで囁く。「君が初めてに決まっているだろう」
「どうだか」
結局アムロはシャアに対して何ひとつ言い返せなかった。
緑に埋もれてぽつんぽつんと点在する、微妙に形の違う東屋風の屋根の下がどうやら席となっているようだ。
二人が通されたのは、その中でもより奥まった場所の屋根の一つ。腰の高さ位置が床という、高床式の洒落た風合いの席だった。広々とした板間には木造の低い テーブルがひとつと刺繍の施されたクッションが幾つか。ライトの代わりに柔らかな光を灯す蝋燭がテーブルを飾る南国の花を照らし出していた。
アムロは靴を脱ぎ、早速上がり込むと物珍しそうにしげしげと周りを見渡した。シャアも向いに腰を降ろすと、アムロ程露骨ではないがやはり同じように周囲に 目を走らせる。「ここに決めて正解だったな」
葉を一枚隔てた先には別の客がいるのだろう。しかし気配はほとんど感じられない。壁があるのは通路に対して背となる一面だけなのだが、背丈 を越す生きた緑が四方の壁となっているの。
開放感はそのままに、どの席もプライバシーが保たれるようしっかり考慮されているらしい。
メニューに目を通すと値段もリーズナブルだ。
雰囲気が良く安いとなれば恰好のデートコースになりそうな店だった。
どうやらアムロはこの店を気に入ってくれたらしい。
心持ち緊張していたシャアはその胸を撫で下ろした。
互いの部屋など限られた場所でしかなかなかアムロは打ち解けてくれない。
先日の食堂での一件にしてもそうだ。
確かに最後のあれは露骨だったかもしれない。だが戦闘中ではないのだ。任務を遂行する同志としてではなく互いを知る者として、もう少し人前でも寛いでくれ ても良いものを。それがシャアの率直な思いである。「まずは乾杯といこうじゃないか」
シャアはなみなみとワインを注いだグラスを手に取った。アムロもそれにならって目の前にグラスをかざす。
チン、
軽くグラスを触れ合わせ、互いの誕生日に祝杯をあげた。知らず2人の間に笑みが浮かぶ。
その後は順に運ばれて来る料理を味わった。
香辛料の強い匂いにアムロは一瞬手を止めたが、口にしてみると意外にもそれは程よい刺激となり、アムロの食欲を進めた。
互いに語る言葉は少なく、静けさに押されて会話もひっそりとしたものだった。それでも食事もあらかた済んだ頃には、シャアもアムロも満腹感と共にアルコー ルの酔いですっかり寛いでいた。
ふっと、二人の間に間が落ちる。
ライトの光りを極限まで落とし、代わりに蝋燭が照らし出すこの世界には緑の織りなす深い闇と濃密な時が流れている。その密度にアムロもシャアも取り込まれ ていく。
このまま眠ってしまうような、心が攫われてしまうような、そんな心地のよさにアムロは身を委ねていた。
ふと見上げた先の、シャアの青い瞳はこの暗さの中では青なのか黒なのか分らない。その代わり炎の光で揺らめき輝いてみえる。いつも以上に彼の瞳が雄弁に見 えるのはこの光のせいだろうか。
シャアはといえばその瞳で食事が終わった頃からアムロばかりを見つめている。はじめのうちこそ気付かないフリをしていたが、少しずつ追い込まれていく自分 をアムロは感じていた。「君はいつも寂しそうだ」
「そうか‥‥」
シャアが囁き、アムロはそれに耳を傾ける。
言葉はしばらくアムロにまとわりついていたが、やがて闇に同化していった。
視線に捕まるのが恐しく、緑の庭に目を泳がせる。葉影からのぞく噴水の小さな水音に聞き入る振りをする。それで目の前の男から逃げ切れるわけがないのは承 知していた。男もむろん知っている。「夢はいつか終わる‥‥。それを考えていただけさ。これが南国の夢であるのと同じように‥」
囁かれた言葉にシャアは瞳を閉じた。
一見人当たりのよさそうに見える彼が、実はその心の奥に人一倍壁を作っている事を、いったいどれ程の人間が知っているだろう。確信に近付けば近付く程、意 地っ張りになる彼の口から吐露される言葉は、時にシャアの心さえ痛めずにはいられない。
しばしの沈黙の後シャアは瞳を開いた。
相変わらずアムロは視線を外したままで、こちらを見ようとはしない。「終わりは始まりの時でもある」
そんなアムロに言い聞かせるように、シャアは殊更ゆっくりと言葉を繋いだ。
「君の言葉を解釈するならば”俺はあんたといつまでも一緒にいたいんだ”というところかな」
「あんたらしい強引な解釈だ」
アムロの声が硬いのは動揺を見せまいとする自己防衛だろうか。そんな事を考えながら、想いの丈を込めて告白する。
「君が生まれた日を、私は感謝しているよ」
アムロの目が見開かれ、その栗色の瞳でシャアを見つめた。
何かを言いかけようとして、アムロは息を飲んだ。
シャアの眼差しの中に彼の痛み、そして喜びを見つけたからだった。
そして彼らしいストレートな言葉に宿る、自分に対する想いに。「なんだよそれ」
憮然としながら動揺に視線が宙を漂うのを止められない。
アムロは言葉が自分の中に波紋を落としたのを感じた。それは良く知るシャアの体温を纏わせながら、よりいくつもの波紋を起こし、まるで共鳴しながらやがて 指の先、細胞のひとつひとつ、心の壁にまで浸透していくようだった。
その心地の良さに抵抗さえ忘れる。「苦手なんだよ。こういうの」
アムロは小さく呟いた。
「あまり縁がなかったから」
視線は彷徨うのを止めていたがシャアを視線に留めるにはまだ至っていない。
「君とこうして出会えるまでは、私も苦手だったと言ったらどうする」
アムロは顔を上げた。
「貴方でも苦手なものがあったんだな」
「私だって人間さ。君のように迷いもあれば恐れもある」
そうだな。
アムロは頷いた。
ひと呼吸置くとアムロは真正面にシャアを捉えた。その表情は何故か険悪で恨めしそうにも見える。「あんたのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ」
「‥‥‥‥」
なのに、
そう言うとアムロは己の額に手を当て、絶対納得出来ないと言うように一気にまくしたてた。「なんだってあんたみたいな男、俺は好きになっちまったんだ!」
「アムロ‥‥」
シャアの瞳がかつてないほど大きく見開かれた。
言い切ったアムロの瞳は、泣きこそしていないが濡れたように揺れている。そうだ。
自分はこの男が好きなのだ。悔しいがどうしようもない程、自分はこのシャアが好きなのだ。
全くなんてことだろう。
今なら大声で叫ぶことさえ出来そうだ。
自覚した途端、滑稽なほど心が震える。
笑ってくれよ、いったい自分はどうしたらいい?「シャア」
アムロは身を起すとテーブル越しにシャアに顔を寄せた。アムロの爆弾ともいえる言葉が効いているのかまだ立ち直っていないらしい今のシャア は、両手で顔を挟まれ強引に引き寄せられてもアムロのなすがままだ。普段ならけっしてあり得ないそれが小気味良い。
そのシャアのうっすらと開いた薄い唇に、アムロはキスというよりぶつける勢いで自分のそれを重ね合わせた。「‥‥‥」
「‥‥‥」
どちらの方がよりその時を長く感じただろう。
シャアがようやく息を吹き返し、より深い接合を求めて動き出すのと同時にアムロは彼から身を離した。不服そうなシャアが可笑しくて笑った。「俺からのプレゼントだ」
いつものシャアにだけ見せる勝ち気なアムロがそこにいた。違うのは「返品不可」という強い意志がその瞳に込められているところか。
有無を言わせないアムロの一方的な攻勢だった。
しかしシャアにはそれで十分だった。
それが日頃本心を明かすことの出来ないムロの精一杯の譲歩だということを、シャアは知っていた。
シャアはテーブルの上に置かれたままのアムロの右手に自分の左手を重ねた。包み込むように握り、離すまいと指を絡ませる。「君の心、確かに受け取った」
柔らかな笑みが自然にのぼった。
シャアの言葉にアムロはただ沈黙を返すだけだった。
だが己の指を絡めた先、アムロの指が明確な意思をもって自分の指に絡まるのをシャアは感じていた。
- LOVE YOU -設定はスパロボでしょうか。
PC内にあったのを見つけたので読みはじめたものの、読むのに3日かかりました。
なにしろ下手さに呆れて。
差上げものだったので当時何度も読み返して修正したにも関わらずこの体たらく。
自分の文才はこの程度なのか‥‥(泣)
いじり過ぎてもいけない、
かといってそのまま乗せるには辛いものがあったので必要最低限で加筆修正かけました。