月 令 24 時




夜である。
時刻にすればすでに十二時を越えている。
入ったパイロットルームでアムロはここにはいないはずの男の顔を見つけた。

いたのか。

さして驚きはしなかったが、シャアは月面都市に行っていたのではないか。特殊独立戦隊 < ブルー・スウェア> の代表として、一癖も二癖もある企業の面々と面を合わせている頃の筈である。
アムロが疑問を口に乗せるとシャアは行って帰って来たのだと言った。

「しばらく向こうにいるんじゃなかったのか」

「後はゼクスがやってくれる」

なるほど、そして自分だけひと足先に退散してきたというわけか。
ゼクスはネオ・ジオンの参謀だ。シャアは彼によほど信頼を置いているようだ。

「連中には協力するようはっぱを掛けてきた。これで補給も多少は楽になるだろう」

「脅したのか」

シャアが笑う。

「脅してどうにかなる連中なら楽なものだよ」

その言葉に一筋縄ではいかない苦労が見え隠れする。
だが結果は自分達に有利な方向へ話を持っていく事が出来たようである。
地球消失事件に巻き込まれる形で戦力の大半を失ったネオ・ジオンだが、シャアの威光までが失われた訳ではないらしい。
過酷さを増すこれからの戦況を考えるとそうでなくては困る。

「シャア、もうすぐ外宇宙に出るんだろう。その話もしたのか」

「ああ。地球圏が手薄になってもらっては困るからな」

アムロ達の敵は一つではない。
ギシン星間帝国、そしてプロトデビルンという強大な相手が敵として待っている。
しかも敵は外だけではなく、地球圏内ではザンスカール帝国と今もって交戦中なのだ。
そしてルイーナと呼ばれる南極に端を発する謎の勢力。
朗報と呼べるのは長年人類を脅かしてきたインベーダーがゲッターチームの奮闘でようやく駆逐されたことくらいで、それでさえ木星圏の壊滅という多大な犠牲 を払った後の勝ち得た勝利である。
戦力は限り無く乏しい。
そんな状態で地球を後にするのはあまりにも危険過ぎた。
そこでアムロは口を噤んだ。
軍人としてある以上自分がどこで命を落とそうとそのことに深い感慨はないが、外宇宙ともなれば長い戦いになるだろう。精神的にも今より辛い筈だ。自分でさ え先の見えないこの戦いには不安を持っているといのに、遠いだけでは済まされない外宇宙にまで子供達を連れていくのは気が引けた。
だがその一方で彼らが貴重な戦力であるのは確かであり、この際仕方の無い事かとも思うのだ。
そんな自身の考えに嫌気がさす。ジレンマを振り払うようにアムロは頭を振った。

「浮かないようだな」

「これからの事を考えるとな」

溜め息だってつきたくなる。

「私の前では構わないが、子供達の前でそんな顔しないでくれよ」

「わかってるよ」

シャアの物言いになんとなくムッとしたアムロはつっけんどんに答えた。
自分がどんな顔をしようが勝手だろう。

「‥‥‥‥」

そんなにひどい顔を自分はしているのだろうか。
思わず指先で頬を撫でる。






たわいのない会話を交わし、それぞれに着替えを進めていく。
その感情の出所は知れないが、アムロは自分がシャアを意識しているのを感じていた。二人しかいない室内では阻むものも無く、否応なく視線がシャアを追って しまう。
シャワーでも浴びていたのか、セットしていない生乾きの濡れ髪がシャアの頬に張り付いている。
総帥になり狡猾さばかりが目立つ好かない男になったと思っていたが、髪型ひとつで随分印象も変わって見えた。
ふてぶてしさは形を潜め、いつもより若々しくさえある。そう、かつて『赤い彗星』と呼ばれていた頃のようだ。
おかしなものだ。
そんな彼を見ていると、総帥という肩書きも彼の仮面のひとつに思えてくる。

「どうした」

気付いたシャアが不思議そうに見返すのにアムロはなんでもないと慌てて取り繕った。

どうかしている。

しかしアムロの視線は吸い寄せられるようにシャアに向いてしまうのだ。












「来るな」

突然シャアが虚空に反応した。
青い瞳がアムロから反れ、睨むように天上に向けられる。
ああ、とアムロも頷く。シャア同様アムロも少し前から強い敵意を感じていた。

「帰ってきて早々これではたまらんな」

「戻ってきたのは誰なんだ?ゼクスに任せずゆっくりしてきても良かったんだぜ」

厭味っぽく言うとシャアは口の端をつり上げた。

「それを言われると辛いな」

ノーマルスーツに身支度を整えた二人の耳にたたましい警戒音が鳴り響いた。
敵機発見、スクランブルを促すアナウンスがタワー艦内に流れる。
二人は口を引き結んだ。





格納デッキから出撃用カタパルトへ。
νガンダムはすでに移送され、後はアムロの搭乗を待つだけだった。
どこもいつもより人が少ないのは隊を二分しているのと、近くの基地施設にメンバーの大半が休養を兼ねて降りているからだ。アムロ達の後からタワーに僅かに 残っていたパイロット達が遅れて駆け込んできた。
νガンダムの隣にサザビーが並んだ。
コクピットではシャアがタワーの司令塔でもある神と何やら話している。
通信が入った。

『アムロ、ブライト艦長が来ている。ある程度ケリがついたらラー・カイラムに搭乗してくれ。我々はそのまま宇宙へ出る』

「本気か?」

νガンダムもミノフスキークラフトを搭載しているが、宇宙と違い重力バランスのハンディがある事には変わらない。空中戦の最中ラー・カ イラムに乗れとは無茶である。

「上でカガチに動きがあったようだ。今はトレーズが対応しているが応援がいる」

こんなときだからこそ起きるのか。
どこもかしこも戦力は手薄なのだ。
まったくなんて慌ただしい事だろう。
そして苦笑する。
さっき似たような事をシャアが口にしたばかりじゃないか。その言葉が終わらないうちに体が重くなりシートに押し付けられた。どこまで上るのかタワーが急上 昇を始めたようだ。
爆音と共にゲッターチームの三機が飛び出していく。と、開口部を出たところで鮮やかに一つの機体に早変わりする。

『相変わらず無茶をするな』

「まったくだ」

シャアが呆れるのに笑いで同意する。

『我々も出るぞ』

サザビーに続いてνガンダムが出撃した。









喧噪から開放され、アムロは静寂な夜に包まれた。
煌々と丸く満ちた月が浮いている。
波のようにうねる青白い雲上。
ハイスピードで駆け抜ける。
冷涼な月光が夜を隅々まで照らす中、赤く燃えて落ちる物体がきらり、と目にも鮮やかな尾を引きながら移動している。
大気圏を降下中のラー・カイラムだろう。
それを囲むようにぽつぽつと赤い光点がまたたく。

敵か。

味方機の先頭を月の光を浴びたサザビーが進む。

後を追うアムロが葛藤を抱えている事をシャアは十分知っている。
数カ月前、アムロはアクシズを地球に落とすというシャアの凶行を許してしまった。
それもOZのクーデターに巻き込まれ、ネオ・ジオンに拘束されるという屈辱の最中である。
地球が消失するという前代未聞の事件が落下直後に起こらなければ、シャアの手によって確実に世界は様変わりしていただろう。
私憤にとらわれている時ではないからこそ、アムロはシャアの説得に応じネオ・ジオンの傘下にブライトと共に入った。
そして敵味方の垣根を越えて集まった組織が<ブルー・スウェア>である。
しかしこの戦いが終わり、もし人類が生き残る事が出来たその時シャアは再び反旗を翻すかもしれず、アムロはそれを否定しきれない。

おそらく‥‥、

それは人類だけでなくシャアにとっても悲劇なのだ。
だからこそ二度と繰り返させないと誓いはすれど、いったい何に向かって唱えたものか。
実はアムロ自身ですらわからない。

どうしたらいい‥‥。

夜なのにやけに明るい。
一人の男の顔が目の前に浮かんだ。

「ゼクス‥‥か」

今シャアに最も近い男は彼なのだろう。
苛立ちが募る。
何か触れてはならないものに触れようとしている予感がある。
だがアムロの心は夜を疾走するνガンダムとただ一点を目指し、月の光の下にいた。


ー月 令 24 時 ー

80000をHITしました夏丸様のリクエスト「スパロボD」設定のシャアム話。
夏丸様の言葉を借りると(勝手にすみません)34と29が同じサイドにいるという夢のような状況。
シャアのやる事を認めないと言いつつ力量やカリスマ性は認めているアムロ。
何かというと突っかかりながら、事ある度にシャアを更生させようとするアムロ。
何よりパラメータが二人揃って激強なのが素晴らしい。となるわけですが、その通りだと思います(笑)
しかもゼクスがシャアの片腕!!
おかげでなんだかひと悶着ありそうな予兆を残した結末に‥‥。
す、すみません。
御希望に少しでも添っていると良いのですが‥‥。