ワイルドでいこう !






「ふふ‥‥。以外と呆気無いものだったな」

久しぶりに座るリニアシートの感触を噛み締める。
はじめにその話を持ちかけられた時は到底上手くいく筈がないと先頭に立って異を唱えたのだが、やってみるものだと考えを改める。しかも工作班の手も使わず 成功してしまったのだからこれまたびっくり上々の首尾である。
こうなるとアムロだって否応なく気持ちは高揚する。カミーユがそこにいたのは誤算だったが、なぁに大した事じゃない。コクピットの中で暗い宇宙に浮かびな がらひとり悦に浸っていた。

『アムロ大尉、後方から急速に接近する機体があります!!』

突然隣を飛行するヤクト・ドーガから通信が入り空中にギュネイの顔が現れた。

『迎え撃ちますか』

「いや、しばらく様子を見よう」

ギュネイは見るからに不服そうだ。彼はやる気でいるらしい。しかしアムロから言わせるとやられるのが落ちだった。一方アムロはといえばギュ ネイから指摘されるまでもなくすでに機体を捕らえていた。いや、相手のプレッシャーをかなり前から感じていた。向こうも同様にアムロの存在をとうに掴んで いるだろう。
今頃気付くのではギュネイはまだ経験が足りないな。

(カミーユか)

「以外と早かったな」

Z単機か。
ウェイブ・ライダーで追ってきているとしたらやはり"お荷物"を載せた形のシャクルズで振り切るには少々無理があったか。
敵探知レーダーがようやく急速に近付いてくる機影を感知した。機体は大きく旋回の形を取ろうとしているようだ。アムロとギュネイのシャクルズ正面へ出よう としているのか。
ギュネイとは明らかに違う青年の声がその時飛び込んできた。鮮明に聞こえるそれは懐かしい声である。

『──アムロさんっ。アムロさんが何故こんなことするんですか!!』

「カミーユ、悪い」

『──悪いって言う事は自分が何やってるか自覚はあるんですね?だったらこんな───』

 ──フィン・ファンネル

アムロがごくごく自然にイメージするが早いか、背中に背負った白く輝く物体がはらはらとこぼれ落ちる羽根ように後方へ流れていった。緩やか にカーブを描いて去ってくそれはすぐさま小さな粒となって闇の中に飲まれたが、ほどなくして消えた先で小さな閃光を幾筋も発し始めた。

『ア、アムロさん!?ちょっ‥‥』

「すまない。今ここで捕まるわけにはいかないんだ」

『だからって、こんな事!!』

アムロの脳裏に行く手をフィン・ファンネルに阻まれ立ち往生するZの姿が映り込む。変型を解いたZは縦横無尽に飛び回るフィン・ファンネル からくり出されるビームを避けるのに手一杯だ。

「カミーユ。『来るものは拒まない』シャアからの伝言だ。ブライトにも伝えてくれ」

『アムロさんっっ!!』

アムロにはカミーユの戸惑う姿が手に取るように分かった。そんなカミーユを後方に引き離しギュネイを呼ぶ。

「ギュネイ。隠した小型艇の所まで一気に行くぞ」

『はっ』

胸の中ですまないともう一度カミーユに謝りながら、そしてアムロはシャクルズの速度を速めた。








 * * * *








レウルーラ艦内に設けられた執務室前の秘書デスクではナナイがタイプキーをせわしなく叩いていたが、アムロの出現に顔を上げた。

「ナナイ。大佐に会いたいんだが」

「───大佐は今お忙しくていらっしゃいます」

「ふうん‥‥」

一見爽やかに見えるアムロの視線だが実は決してそれだけでない。それを知るナナイは事務的に返事を返しながら内心冷たい汗を流した。
と、その時、

「アムロッ。本来なら君の勝手な行動は軍法会議ものだが、私が作戦許可を出しておいた」

執務室の扉が勢い良く開いたと思うと、中から忙しいはずのシャアが姿を現わした。

「大佐!」

咎めるようなナナイの視線を軽く流してアムロの前につかつかと近付く。

「さすがに良い腕だな。新型をああも使いこなすとは。君自身が設計から手掛けてきた機体とあれば当然か」

そしてシャアは執務室に入るようアムロを招いた。同時にナナイに下がるよう指示をした。








「いいのか?忙しいんだろ。ナナイが眉間に皺を寄せていたぜ」

また彼女に嫌われたな。そう愚痴るとシャアに一笑にふされた。

「私にも気晴らしは必要だ。なにしろここは逃げ場がないからな。私は君の訪問は大歓迎だよ」

「俺は気晴らしか」

「揚げ足を取らないでくれないか」

シャアはアムロをソファに座るよう促すと、何か飲むかと訊ねた。
ではブランデーを。そう言ったアムロの前にシャアはキャビネットから取り出したブランデーの瓶とグラスを置く。同様に自身のグラスも用意すると琥珀の液体 を二つのそれに注いだ。手渡されたグラスにアムロは遠慮なく口をつけた。

「小型艇の代わりにあんたがいたから驚いたよ」

しかもあんな巨大なモビルスーツ、今まで一度も見た事がないぞ。ずっと隠し持っていたのか。

「驚いたのはこっちだ」

「怒っているのか」

「当たり前だ。頓挫した作戦を間に受けて出ていくのだからな。しかもそれがアムロ・レイだぞ。真っ先に反対した張本人がだぞ。これでは兵に も示しがつかん」

「気が変わったんだ。それに首尾は上々あんたの許可も出て万事解決。それでいいじゃないか」

「何が解決だ。こっちの身にもなってみろ、フォローが大変だったんだぞ。まさか一昨日の言い争いを根に持っての行動ではないだろうな?」

「そんなわけないだろ」

半ば図星だったがあえて知らぬを通す。空になったグラスを差し出すとピッチが早いとシャアにたしなめられた。
それでも二杯目を注ぎながらシャアはやれやれと首を振った。

「君はどうも少し意地が悪くなったな」

「人聞き悪いな。世間に揉まれたと言ってくれ」

そしてアムロは話題を変えた。

「あんなモビルスーツ見た事がないぞ」

表情も玩具を見つけて嬉々とする技術者のそれになり、壁のモニタに格納デッキを映せと催促する。
シャアは苦笑した。

「MSN-04-2『ナイチンゲール』だ」

「ナイチンゲール‥‥」

大形モニタに映し出された真っ赤に染めあげられた異形のモビルスーツにアムロは釘付けとなった。

「君の設計したHi-νガンダム。それに合わせて造られた未完のモビルスーツだ」

「‥‥‥‥‥‥」

シャアの説明が続けられる。

「しかしHi-νガンダムが完成間近で製造中止になったことでナイチンゲールもまた封印された」

「‥‥‥今になって出してきたのは俺が、寝返ると思ったからなのか」

「万が一を考えてだよ。私の出現は何らかの動きを引き出すのは必須だ。君にもしもの事があったとしてもその混乱に乗じて救い出せるという算 段だった。その際にはν同様君が連邦軍在籍中設計に携わったというHi-νガンダムも頂いて君と共に帰る予定だった」

「‥‥‥‥」

アムロはしばらく黙ってシャアの言う事を聞いていたが、ぼそりと疑わし気に口を開いた。

「単に使ってみたかっただけじゃないのか」

「それもある」

「呆れたな」

ほらやっぱりと思う。自分に対する自信の表れなのか。アムロとしてもそこまではっきり返されると何も返す言葉がない。

「私は常に現役のパイロットでありたいのだよ」

「気持ちは分かるがあんたの身体は一人のものじゃないんだぜ」

この男の行動一つが多くのスペースノイドの未来を左右するのだ。
モニタに映るナイチンゲールの巨大な翼は鳥の羽根か甲虫か。獰猛な蜂のイメージすら抱かせる。『ナイチンゲール』なんて可憐な小鳥の名前は誰の趣味なのだ ろう。だが名前はともかく火力もパワーも相当のようだ。あんなものは敵にしたくないなとこればかりはアムロも素直に思った。

「それで君はカミーユと接触したのか」

「ああ。一応誘いの言葉だけは掛けておいたよ。脈はあると思う」

「そうか」

そこでシャアは言葉を切った。

「アムロ」

「ん?」

「──働いてくれるか」

アムロは結んだ口の端をつり上げた。

「今さらの質問だな」










連邦に『白き流星』あり。ジオンに『赤い彗星』あり。
かつてそんな風に呼ばれていた時代があった。
幸か不幸か当時はお互い遭遇する事もなく戦争は終結した。
それから数年が経過した後、シャアはクワトロ・バジーナと名乗りエゥーゴの、そしてアムロはカラバの一員として共通の敵ティターンズと戦っていた。その時 二人は初めて出会い、アムロはシャアから昼夜問わず熱烈に口説かれたのだった。
口説かれたといってもそれは連邦政府に見切りをつけ、その頃生まれた新手の組織ネオ・ジオンへ行かないかという色気とは縁遠いお誘いだった。しかし気がつ けば同じベットを共有する、浅くはない関係で──。

(騙されたよな‥‥‥)

今でもその時の衝撃をアムロは憶えていた。
クワトロ・バジーナという男、随分ネオ・ジオンの肩を持つと思っていたら、なんと総帥本人でしかもあの『赤い彗星のシャア』であり、連邦軍での仮の姿がク ワトロだったわけである。
それをアムロが知ったのは、すでにのっぴきならないところまで気持ちが彼に傾いてしまっていた後だった(もちろんそんな事口が裂けても言えないが)。
そしてティターンズとの抗争終結後は晴れて連邦正規軍に編成されたエゥーゴに席を置いていたアムロだったが、シャアの熱意に負けてとうとう条件付きでネ オ・ジオンに鞍替えしたのである。

未来を託せる男になれ───。

それがアムロの出した条件。
そして俄然はりきったのはクワトロ‥‥いやシャアである。










「ところでシャア。俺は褒美は貰えないのか」

「褒美‥‥?」

シャアは眉を顰めた。

「Hi-νを手に入れて、いよいよモビルスーツの予算計上か?」

「あんた馬鹿か」

「馬鹿はないだろう。モニタに張り付いている君を見れば誰だってそう思う」

明らかにシャアは気分を害したようだ。
しかし害したのはアムロも同じだ。

「俺だってたまにはその気になるんだぜ」

一瞬おやっという顔をシャアは見せたが、アムロの憮然とする姿にグラスをテーブルに置くと彼の座るソファにまわりこんだ。モニタのスイッチ を切る。一昨日から今日まで目と鼻の先にいながら会話ひとつしていなかったのだ。元の鞘に収まって、ようやく本来の二人の距離に戻る。

「私をやきもきさせておいて褒美を要求するとは、君は大したものだよ」

「そのくらいの働きはしてきたつもりだぜ」

そうこうしているうちにシャアの顔が近付く。
ああキスされるな‥‥そんなことを考えていたアムロだったが、

(俺ってなんでこんなに頑張ってるんだろ‥‥)

ふとそんな考えがアムロの脳裏をよぎった。
シャアとネオ・ジオンを選んだ事でアムロはすっかりお尋ね者だ。そして粋がる歳でもないのに、Hi-νガンダム奪取なんて危ない橋を自ら渡って。今になっ て急速に自己嫌悪に陥りかけそうになる。
が、その時アムロはシャアによってすでに口を塞がれていた。自分の世界に没頭出来たのは僅かな時間で、結局後は熱いうねりに押し流されてしまった。代わり に浮上してきたのは別の思いである。

自分はこの男が本当に好きらしい。
今さらなのだ。
今になって放っておけるわけがない‥‥‥。

そんな声だった。








アナハイム・エレクトロニクス社のモビルスーツ製造工場内格納ブロックにおいて一体のモビルスーツが何者かの手により奪われるという事態が起こった。
奪われたのは連邦軍きってのエースパイロット、アムロ・レイ専用機として開発途中にあったRX-93-ν-2通称『Hi-νガンダム』。
アムロ・レイ本人が駆動していたνガンダムに搭乗したままネオ・ジオンに投降するという逸脱を行った為に完成を目前にX-93-ν-2は製造中止となって いたが、その性能、技術は最高機密の部類に属し、よって連邦軍ではアナハイム社に対し厳しく非難すると共に知的財産の莫大な損失と流出に対する賠償、早急 な事件の真相と解明を求めた。しかし同社はその事実一切を黙殺した。結局事件は未解決に留まり、真相は解明されないまま連邦、同社の上層部のみに留まるこ ととなった。
また同日には月面都市近くのアステロイド密集地で巨大なモビルスーツらしき物体の目撃情報が寄せられたが、隕石を見誤ったとものして(非常に人型に似通っ ていたらしい)処理された。








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裏111Hit イトエン様
『アムロ、ネオ・ジオンで働く、それも本気で、しかも真面目に、でもひねているアムロ』
話に求めた疾走感イメージは
ステッペンウルフの大ヒット曲「ワイルドで行こう」(笑)
歌詞は知りませんが好きですね〜。あの疾走感とヘビーさが!!