少年の時間 3




「大佐。その位で勘弁してあげて下さいな。アムロが困っています」

心の声が届いた!?

アムロはシャアの手が止まった隙に逃げ出そうと身体を起した。しかしすぐさま逃すまいと全体重をかけてくるシャアの前にみごと押しつぶされ てしまう。蛙のように潰れた声を出さなかっただけましというものか。仕方なくかろうじて動く首から上を声のする方に向けると、大きく開かれた戸口の先には 面白そうに2人のやりとりを眺めるララァの姿。

「ララァ!?」

‥‥‥‥ふつう、こーゆー場面で女の子ってのは動揺しないのか‥‥?

アムロの脳裏をそんな疑問がよぎる。しかし今はそんな場合ではないのを思い出す。唯一の頼みの綱はなにしろ彼女ただ1人なのだから。
相変わらずシャアの手はアムロの際どい部分に置かれていたが動きは止まったようだった。その事にほっとしたのもつかの間、手から伝わるぬくもりが熱くて妙 な気分を起しそうだった。
このままだと本当にまずい!!
そしてアムロははララァに必死に念を送るのだった。
ララァごめんなさい。もう馬鹿なんて言いません〜。だから早くなんとかして!!
幸い念が届こうと届くまいとララァは助けてくれるつもりだったらしい。

「まだ子供なんですから」

そーゆー問題じゃないんですけど。
とは思ったが、とにかくシャアがどいてくれるのならこの際なんだって構わない。

「ララァ。子供子供と思っているうちに子供は大人になっていくものさ」

シャアは最もらしく言ってみせたが、この状況ではどう見ても獲物に襲い掛からんとする狼以外の何者にも見えない。説得力の欠片もあったもん じゃない。どうやらシャアはアムロの上から退く気はないようだ。
だがララァも強かった。

「・・・・犯罪」

ララァの声はどこまでもにこやかで、鈴のようだった。ただ目が笑っていないのが恐い。
そんなララァに危険を感じたのか、あるいは犯罪ーーー、その言葉に思う所があるのか、しばらく考えた末、シャアはようやくアムロの身体から身を起した。
身体から熱と重みがなくなると同時に、アムロはすばやく飛び起きた。そして胸元までまくれ上がった服を引き降ろし整える。それからシャアの視線を気にしつ つもソファの端、シャアから最も遠い位置に座り直す。遠いといっても手を伸ばせば届く範囲である。ささやか過ぎて情けないがアムロの抵抗の意思表示だ。
そんなアムロに名残惜し気にシャアは視線を流していた。

僕にどうしろってんだよ!!

シャアの視線は痛い程でアムロは視線を返す事が出来なかった。
体中が熱を持ったようにどきどきしていた。しかもシャアの温もりは離れた今もアムロから抜け去ってくれない。
なぜか嫌悪感がないだけに厄介だった。
だからといってここで許したら、自分は後戻り出来ない世界に入ってしまう。それだけは避けたかった。
アムロだって人並みに女の子と付き合いたいのだ。

「アムロ。部屋の用意は出来ていてよ。それとももうしばらく大佐と居たいのかしら」

「あ、ええと、いえ。僕はもうこれで」

出来る事ならララァに即答したいところだったが、さすがにそれはまずいだろう。
そんなアムロにララァはニコリと微笑むと、シャアには一瞥も与えず部屋の外へとうながした。








ララァのおかげで難を逃れたものの、男としてはかなり恥ずかしい場面を見られてしまった事にアムロは気がついた。
彼女は何とも思わないのだろうか。
アムロは少し前を歩く少女を見つめた。
階段を登り2階の客間へ通された時だった。

「私、あなたに嫉妬してよ」

「えっ」

ララァの思いもよらない突然の言葉にアムロは面喰らった。

「大佐はお優しいわ。でもそれを許すのはほんの一握り。貴方は今日出会ったばかりで誰よりも優しくされているんですもの」

「そんなこと、ないです」

ララァは一体何を言っているのだろう。優しいって、まさかさっきのことを言っているんじゃないだろうし‥‥‥。
アムロが返答に困っているとララァはクスリと笑った。

「大佐はあなたと初めて会った気がしないんですって」

「それは」

幾度となく自分達はMS戦で対峙したから。
たとえ顔を知らなくても。
ララァとも僕は戦わなくてはならないのだろうか。

「あなたもジオンの人なんですか」

「私?さぁ、どうかしら。私は大佐を守りたいだけ」

大佐を守りたいだけ‥‥‥。

その言葉がアムロに重くのしかかる。

「私もあなたの事好きよ」

「え?」

でも、嫉妬も本当。
そう言ってララァは出ていった。




急ごしらえではあったがララァによって整えられた部屋は清潔で、もぐり込んだベッドも心地の良いものだった。
今日一日なんてたくさんの事があったんだろう。
父さんに別れを告げて、赤い彗星に出会った。
心は痛いはずなのに少しわくわくしている。そんな自分をもう1人のアムロが見ている。
そうか。あの人が赤い彗星のシャア。
僕がガンダムのパイロットだと知ったらあの人はどうするだろう。
あの人が‥‥‥。

「‥‥‥‥」

あんな、あんな‥‥‥‥が赤い彗星だなんて。

「・・・・・」

カギ、かけといた方がいいのかな。









夢を見た
大佐が僕に しきりに何か喋っている
それはとても大切な事らしい
だから僕は大佐に笑って見せた
言ってる意味はわからないけれど
嬉しくて

暗い宇宙でのことだ

僕らは知っていた
時の存在しないこの世界の
見えない先に何があるのかを
でも

手が届かない・・・・・
あまりにも遠すぎて
途方に暮れ る僕に
星の光は照らす事も、手を貸す事もしてくれない
神様はやっ ぱり意地悪だ
そう思って いる僕に
それでも大佐は語りかけていた
ララァでも他の誰でもない
僕だけだ

なぜだろう・・・・?
この人と一 緒なら、僕は辿り着く事が出来るかもしれない
それは確 信?
どこへ?どこに行くというのだろう
宇宙で僕ら はゆらゆらと揺れていた
足元には地 球
たくさんの人がこれからも死んでいくというのに
地球はなんて青く澄むのだろう






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